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型彫放電加工の優位性

 型彫放電加工は、その他の加工方法と異なり、材料と接触しないで加工する非接触加工を特徴としています。一方で型彫放電加工と、その他の加工方法、代表的な切削加工と研削加工とはそれぞれ、得意な加工、不得意な加工が分かれており、それらを意識して加工方法を選択することが材料を加工する上で最も重要な要因となります。

 以下の表に型彫放電加工と、切削加工、研削加工とがそれぞれ得意とする加工、不得意とする加工の分類をまとめました。

1.高能率加工

 材料の除去率を主眼とする高能率加工では、切削加工の優位性は揺るぎません。この加工分類において、型彫放電加工では局所的な溶融除去加工であるため、加工速度が切削加工の加工速度に太刀打ちできないからです。 

 

2.高精度加工及び高品位面加工

 高精度加工及び高品位面加工では、研削加工が最も優れています。

特に高品位面加工では、切削加工で表面を切削後に研削加工で仕上げ加工を行うことで高品位面を得ることができます。

 

 では、型彫放電加工では、高品位面加工を得られないのでしょうか?

 

 型彫放電加工では、材料の表面を局所的に溶融除去していくことから、材料の表面には極小のクレーターが多数形成され、一般的には材料の表面は梨地状になります。

 しかしながら、仕上げ加工の際に放電エネルギーを調整することで、材料の表面を鏡面上に仕上げることができます。型彫放電加工でも高品位面加工を行うことはできます。一方で、放電加工時間が長くなるというデメリットもあります。研削加工では、できないような複雑な曲面の表面仕上げには型彫放電加工で加工するメリットがあります。

 

3.微細加工

 微細加工の分野では、型彫放電加工の実力を発揮できます。型彫放電加工は、数μmオーダーでの局所的な連続除去加工です。したがって、バイトやドリルといった刃物を使用する切削加工では困難な微細形状の加工についても、極細の電極を使用することで、微細かつ複雑な形状でも加工可能です。特に凹状部の角部など、ドリルだとどうしてもRがついてしまう部分でも角部のエッジを得ることができます。

 

4.深穴加工

 深穴加工の分野では、最近、0.1mm単位のドリルも普及してきており、以前ほど型彫放電加工の優位性があるとは言えません。しかしながら、極細径のドリルを使用した深穴加工では、材料の種類や剛性、ドリルの摩耗、ドリルと材料との相性など考慮すべき点が多いのが現状です。

 この点、パイプ電極等を使用しての穴開けが可能であり、かつ導電性材料なら加工可能な型彫放電加工は、まだまだ切削加工に対してアドバンテージがあります。

 

5.複雑曲面加工

 複雑曲面加工では、最近、5軸加工機が普及しつつあり、複雑な曲面加工を切削加工機でも行えるケースが増えてきました。一方で、5軸加工機は、導入コストがまだまだ高く、加えて加工プログラム作成にも手間がかかります。

 その点、型彫放電加工は、もともと、複雑な曲面形状を有する金型を加工するための加工方法であり、もっとも得意とする加工分野であります。

 したがって、複雑曲面加工の分野では、まだまだ型彫放電加工の優位性は揺るがないといえます。

 

6.超硬材加工及び脆性材加工

 超硬材加工及び脆性材加工の分野では、接触して加工する切削加工が最も不得意な分野です。超硬材加工では、使用できる刃物が限定されますし、使用する刃物の摩耗も大きいです。さらに、切削加工が最も得意とする高能率加工ができないこともあって、コスト的に厳しくなってきます。

 切削加工において脆性材を加工する場合、刃物が脆性材に与える切削抵抗や加工時の振動によって材料が剥離したり、砕けたりと材料が破損することが多く、切削加工が最も不得意とする材料です。

 一方で、型彫放電加工は、非接触加工であり、材料に導電性があれば、溶融除去させることができるので、切削加工が不得意とする超硬材及び脆性材の加工に最も適している加工方法といえます。

 

7.まとめ

 型彫放電加工は、切削加工及び研削加工に対して微細加工、深穴加工、複雑曲面加工、超硬材及び脆性材加工などで優位性を有しています。

 一方で、型彫放電加工はその加工方法の特質上、材料の除去率では切削加工には及びません。

 加工方法を選択する場合、コスト面、要求される仕上げ精度、加工する材料等の前提条件に基づいて、型彫放電加工、切削加工及び研削加工の特性の違いを理解したうえで、最適な加工方法を選択することが必要です。